キラリと光るキラっ人さん

キラっ人さん紹介

価値を高め社会をつなぐユニバーサルデザインの力を信じて

  • 大竹 愛希さん(合同会社楽膳)
  • おおたけあき
  • 合同会社楽膳 代表

1979年福島県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業後、桑沢デザイン研究所でプロダクトデザインを学ぶ。2004年からNPO法人シャロームに参加し、NPO法人が運営するパン店「まちなか夢工房」スタッフとデザイナーを兼務。2006年に合同会社楽膳を立ち上げて、現職に。

手に障がいのある人の声から始まったプロジェクト

 当社は、障がい者を支援するNPO法人シャロームのデザイン部門関連会社で、障がいの有無に関わらず使いやすく魅力的なユニバーサルデザイン(以下UD)製品の企画から販売までを手掛けています。UDの取り組みは、ボランティアをしていたある男性の声がきっかけでした。彼は手に障がいがあり、「このコーヒーカップは僕には持ちづらいんだよね」と話していたことから、「誰でも使いやすい食器を作ろう」とNPOでワークショップが始まりました。
 その頃私は、専門学校でプロダクトデザインを学んでいました。両親が長年シャロームでボランティア活動をしていたので、小さい頃から障がいのある人たちは身近な存在でしたが、「自分の好きな道に進んでいいよ」と言われていたこともあって福祉分野への就職は考えていませんでした。ところが、大学の授業でたまたまUDを知る機会があり、「やりたい事はこれだ」と思いました。もともとデザインは好きだったので、UDの視点で取り組むことで好きなことを仕事にしつつ、なおかつ誰かの役に立てるかもしれないと思い、大学卒業後はデザイン学校に進学しました。デザイン学校にUD専門のカリキュラムはないので、UD的な視点を意識しながら勉強をしていました。卒業制作はUDの視点を取り入れた「もちやすい器」でした。NPOが始めた取り組みと自分がやりたいことが合致したことから、2004年に私もNPOの職員に加わりました。

障がいのない人も手にとってくれる使いやすい漆器を

  私たちがUD食器の素材として選んだのは漆器です。熱伝導がゆるやかな木材は熱いものを入れても手が熱くならず、料理が冷めにくいという特長があります。また、当時はUD食器といえばプラスティック製の介護用ばかりで味気ない印象がありました。漆器であれば、落ち着いた美しさがあるので、障がいの有無に関わらず「すてきだな」と手に取ってもらえると思いましたし、ささやかでも福島県の伝統工芸・会津漆器を盛り上げたいという気持ちもありました。
 ネックになったのは木地職人の負担です。お碗の底の一部をカットすることで握力が弱い人も持ちやすい形状にしたために、非常に手間のかかるオーダーになってしまいました。普通なら断られても仕方なかったのですが、ある木地職人さんと出会い「手が不自由になった父親のために使いやすい器を作りたい」と協力してくれることになって、他にも複数の塗師さんが力を貸してくれることになりました。試作品ができてからも手や視覚に障がいのある人たち、そして一般の人たちと一緒にさらに検証を重ねて、2006年にUDの漆器ブランド「RAKUZEN」を発表しました。

「いいものはいい」という海外の高評価が自信に

 非営利のNPOではなく、あえて別会社を立ち上げたのは、障がいを持つ人に「RAKUZEN」の開発や製造の過程に関わってもらって収益を得ることで、社会参加につなげていきたかったからです。この考えに二人の職人さんも賛同して、有限責任者として役員に加わってくれました。
 2014年には、「外部からの何かお墨付きがほしい」とグッドデザイン賞に応募して、受賞しました。同年、福島県の事業でフランスの見本市「Maison & Objet(メゾン&オブジェ)」に出展したところ、海外のデザイン関係者から驚くほどの高い評価を受けることができました。漆器のもつ魅力が前提にあるとは思うのですが、お茶碗をもって食べる文化ではない国の人たちが、「いいものだ」と受け止めてくれたことが、自信にもつながりました。これをきっかけに、私はずっと兼務していたパン店のスタッフを辞めて、デザインの仕事に専念することを決意しました。

「自分の常識と人の常識は違う」から

 私が大学で学んだのは国際政治経済で、デザインの仕事をするまで回り道をしましたが、決して無駄ではなかったと思います。民族紛争やアイデンティティについて学んだことで「自分の常識と人の常識は違う」という視点が身についたことは、UDの考え方にも大いに役立っています。パートナーと事実婚を選んでいるのも、人それぞれに違う形があってもいいという考えからです。
 デザインには、モノの価値を高める大きな力があります。福祉分野がデザインをうまく取り入れることで、多くの人たちに関心をもってもらったり、商品を手にとってもらう機会が増えることを仕事を通じて実感してきました。「デザインは社会をつなげる」という可能性を信じて仕事を続けてきたところ、最近は地場産業の活性化に関わるデザインなど、仕事の幅が広がってきています。今年は、福島市の繊維メーカーの素材を用いたオリジナルバッグの開発に取り組みました。
 年齢、性別、障がいの有無、人種等にかかわらず、多様な人々にとって使いやすいUDの考え方を踏まえながら、これからは、デザインの力で社会課題の解決を試みる「ソーシャルデザイン」にも力を入れていきたいと思っています。(2021年2月取材)

>> 一覧に戻る

キラっ人さんを応援している企業のご紹介
キラっ人さんがいる企業とは
どんな企業なのか、気になります。
福島で頑張る
キラっ人さん紹介
どうしてキラっ人さんがキラキラしているのか分かるかもしれません。

pagetop